今回も勝俣が担当します。(前半に私の専門分野の訪問先が固まっているため、ブログも連続です!)
7日目は、ドイツ最大の国立研究機関であるMax Planck 研究所の、Nano-Systems from ions, spins and electrons部門に訪問してきました。
事前にスピントロニクスに興味があると話したところ、いくつかのスピントロニクス関係の研究所を訪問できるツアーを計画してくださいました。
まずは、Dirkさんからこの研究所についての紹介をうけました。電子機器のストレージを上げるために、現在使用している2次元構造ではなく3次元を利用するという新しいコンセプトを紹介してくださいました。
Dirkさんがこの研究所の方針を説明してくださった時、繰り返し使っていた言葉は「Go beyond」でした。例えば、「Going beyond current technology.」です。私も研究する際は、この言葉を胸に頑張りたいと思いました。
自作の装置
これはDirkさん手作りの装置で、単層のような非常に薄い試料を破壊せずに測定する装置とのことでした。この測定では超真空にすることが最も大事だそうです。バルクでは歪み状態にすると破壊が起きますが、薄膜では破壊が起きず、応力テンソルなどの機械的性質を測定できるそうです。また、薄膜にすること、バルクとは異なる磁気的性質が現れます。その際の磁化方向の測定もできるそうです。さらに、層の数なども測定することが可能とのことでした。
LT-STM
走査型トンネル顕微鏡(STM)は、探針(プローブ)と呼ばれる針を単一ナノ構造の試料表面に近づけ、針と試料との間に流れるトンネル電流を利用することによって、試料表面の局所的な磁気情報を原子スケールで観察することができます。LT-STMのLTはLow Temperatureを表しており、この装置では3Kまで下げて測定することが可能だそうです。顕微鏡写真を見せてもらうこともできました。写真では、磁区やコンタミを実際に確認することができて非常に面白かったです。
MANGO
次はMANGOという装置を製作している研究室に訪問しました。まず気になったのは、名前の由来です。正式名称は、「Multi-source, Atomically engineered, Next Generation allOys and compounds deposition system」だそうです。頭文字ではないところに大文字があるような気がしますが…研究グループリーダーが食べ物の名前をつけるのが好きなためこのような名前になったそうです。
MANGOは新しい材料を従来よりも速いスピードで発見するための装置だそうです。イオンビームによるスパッタリングで、薄膜に磁気パターンをナノスケールで堆積して試料の作製を行うことができます。MANGOは非常に長さの長い装置で、装置内のチャンバー間を移動させることで、この装置内だけで試料の作製やさまざまな分析が行えるそうです。
また、この装置は巨大プログラムによって動かされていました。このプログラムは会社から購入したものだけれども、制御やソフトウェアは自分たちで作成したそうです。会社は実験について詳しく知らないためだそうで、装置の作成には様々な知識が必要とされることを感じました。実際にこの装置のプログラムを操作し、装置を動かしていただくこともでき、より理解が深まりました。
PAPAYA
これは去年完成したばかりの装置で、正式名称は「3D model of Multi purpose chamber for production and analysis of nano-system at NPI-Halle」です。この装置も薄膜を作製して分析する装置で、真空にしてチャンバー間を移動して走査型電子顕微鏡(STM)・X線光電子分光(XPS)などの分析を行うそうです。TEMでは局所的な表面の電子状態を調べることができ、XPSでは結合エネルギーの違いから構成元素とその電子状態がわかる、とのことでした。
Attocube
ここでは、原子間力顕微鏡(AFM)の技術を用いて、アップスピンとダウンスピンの分布を調べることによって低温における磁壁の移動の原理を解明しています。磁壁の動きを知ることは、メモリの開発に非常に重要なのです。振動している磁石を近づけて、周期がどう変化するかを調べることにより、磁壁の位置を知ることができるそうです。
お昼
お昼は、Attocubeで説明してくださったAnkitさんと一緒に食事をしました。
Max Planck と共同研究を行なっており、Max Planckの近くにあるMartin-Luther大学の学食にいきました。ヨーロッパの物価は高かったのですが、学食は私たちの大学と大差ない値段でした。
Ankitさんはインド出身で、インドの大学でもスピントロニクスの研究をしていたそうです。修士課程を修了し、この分野で有名なスチュアートパーキンさんの下で研究したいと思い、チュアートパーキンさんがディレクターを務めるNano-Systems from ions, spins and electronsでPhD取得を目指して研究を行なっているそうです。私もスピントロニクスに興味があり、スピンバルブの発明者であるスチュアートパーキンさんのことを知っていたため、Max Planckを訪問先に選びました。
Ankitさんはインドからはるばる研究をしに来ており、さら7ヶ国語話すこともでき、非常に努力家かつ才能のある方でした。教育機関ではなく研究機関での博士号取得とだけあって、取得するのは非常に大変とのことでした。しかし、Max Planckは国立であるため資金に困らず、研究環境は非常にいいとのことでした。
Cleanroom TGZ
精密な操作を行うための部屋で、近くにある大学や他の研究所と共同で利用できる部屋となっています。このクリーンルームは2段階に別れています。1段階目のクリーンルームでは、髪と靴を覆い、専用の作業服(防塵服)を着ると入ることができます。その奥にある2段階目のクリーンルームに入るためには、目以外が出ていない状態になる格好にさらに着替える必要がありました。今回は1段階目のグリーンルームに入り、透明になっている2段階目のクリーンルームを外から見せていただきました。このクリーンルームは学生でも利用できるとのことで、学生の頃から非常に精度高い研究ができるのはとてもいい環境だと思いました。
クリーンルームを案内してくださったNeerajさんは、以前日本の産総研で働いており、プロジェクトが完了したためにこちらのMax Planckに移動したそうです。Neerajさんは山登りが好きで、日本にいたときは富士山の頂上まで登ったこともあるなど、日本の話題でも盛り上がりました。
FIB
集束イオンビーム(FIB)は、キャラクタリゼーション前の試料の準備のための装置で、集束したイオンビームにより、発生した二次電子などを検出して顕微鏡像を観察したり、ラメラパターンなどμスケールで試料表面を加工したりすることのできます。この装置はマイクロスケールなため、基礎的な研究というよりもより産業的な段階への研究を行っているとのことでした。操作には数時間〜数日がかかり、試料により時間は変わるとのことでした。
数多くの最先端の装置を実際に見せていただける、貴重な経験となりました。スピントロニクスとスピントロニクスに関連する装置の知識を増やすことができ、楽しかったです。