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10期 文化体験報告

epats10期の満留です。先日は文化体験学習のために岐阜県の関で和包丁づくりを体験してきました。

文化体験学習は、海外渡航の前に日本の文化を知ることを目的とした文化学習の一環で、興味を持った伝統や文化について実際に訪れ、体験する学習です。

海外渡航では、その街並みやそこで生活する人々から、また訪問する施設等から、現地の文化や思想などについての体感が得られると思われます。その際に、事前に日本の文化を知っておくことで、共通点や相違点、独自性など比較することができ、より多くのものが得られると考えます。

今回は私の地元にも近く、かねてより興味を持っていた関で、長年作られてきた刃物について体験することにしました。関は世界三大刃物産地の一つであり、日本刀をはじめとした様々な刃物を約800年にわたって作り続けていた街です。先日はそんな街で、実際に日本刀を作っている方の鍛冶場を使い、日本刀の作り方と似た手法で和包丁作りを体験させていただきました。

体験の手順

最初に材料となる玉鋼を見せていただきました。玉鋼は日本独自の製法であるたたら製鉄によって砂鉄から精製される純度の高い鉄で、拳大に砕かれた状態で刀鍛冶の元に届きますが、その成分は均一ではないため、一つ一つ性質が異なります。実際に見てみると、確かに表面のゴツゴツした雰囲気や、光の反射具合が石によって、また同じ石でも場所によって異なります。刀鍛冶はそれにより硬さなどの特性を把握し、場面によって使い分けるそうです。今回はすでに鍛錬されて、板状になった玉鋼を使用しました。

鍛造をするにあたって使用する炉は火炉(ほど)と呼ばれる炉で、今回使用した火炉は大量の炭を盛る溝とがあり、側面に開いた穴から吹子で空気を送り、上方にある煙突から空気が排出される仕組みでした。
春という季節柄や、包丁の大きさに合わせた炭の量のためか、鍛冶場は案外涼しかったです。熱気はその熱ゆえに真上の煙突から効率的に排出されているのでしょうか。

ここで使用される炭は一般的にBBQ等で使用される炭と違って、松の炭が使われているそうで、すぐに火がつき、すぐに燃え尽き、燃焼の温度が高いことが特徴だそうです。
炭の火おこしは大変なイメージがありましたが、この松の炭ではダンボール一枚に火をつけ、炭に埋めて風を送るだけで火がついてしまいました。松の炭は様々なサイズが用意されており、刀鍛冶はこの炭のサイズの選択で温度を調節しているとのことですが、最初は薄いチップ状で木の葉大のものが用意されていました。

次に炭の山の中に玉鋼の板を入れ、吹子で風を送り、赤熱させたのちに、金槌で叩いて望みの形に鍛造するという作業をくりかえしました。吹子は木製の四角いシリンダ状のもので、空気を送る際は絶え間なく往復させますが、軸受けやシールも木などの原始的な素材でできているからか、滑らかに動かすには力を正確な方向にかけなければならず、大変でした。
この際に火箸という長いペンチの方なもので板を掴みますが、この火箸には様々なサイズが用意されており、持つ場所の大きさによって適切なものを選択します。

金槌は、今回は小槌と大槌の二種類を使い、変形させたい量によって使い分けました。小槌の場合、火箸も小槌も自分で持ちますが、大槌の場合では柄の長さが一メートル以上あるので、大槌で叩く人と火箸を持つ人に分かれて2人で鍛造しました。どちらの槌の場合でも叩く場所は一定にして、ナイフの方を動かして鍛造するのですが、重い金槌を一定の位置に振りおろす作業も正確性が必要で案外難しかったです。細かい部分は少しの水で冷やしながら叩きました。今回はそこまで大きな変形を必要とする作業ではなかったのですが、それでもかなりの体力を要する作業に感じました。

 

←様々な大きさの火箸

 

 

 

次に金ヤスリと「せん」と呼ばれるカンナと同じような仕組みで鉄を削る道具で形を整えましたが、焼き入れ前とはいえ意外と鉄は削れるものなのだなと思いました。この「せん」も自作するのだそうで、そこにもきっと職人の技術が詰まっているのでしょう。

次は焼き入れです。刃物は切れ味と強度を両立するために、硬い代わりに脆い刃先と柔らかい代わりに丈夫な刀身が必要です。今回は、刃先のみに焼き入れを施すことで、刃先と刀身の硬さの差を出す方法で作成しました。

この時に重要になるのが焼刃土です。焼刃土は泥のようなもので、これを塗った上で焼き入れを行って、水につけて急冷する際に、土を塗る厚みが薄いと速く冷え焼き入れされ、厚いとゆっくりと冷え、柔らかくなります。この際にできる刃先と刀身の硬度や組織の差で刃紋が生まれます。この焼刃土も材料を自分で配合して使うそうですが、とても塗りやすいものを作るにはノウハウと研究が要りそうです。刃紋も焼刃土の塗り方で決まりますが、思い通りの形を生み出すための塗り方を想像するのは非常に難しいとのことです。

焼刃土を塗った後は、炭の上で熱して乾かしたのちに、炭の中に入れ赤熱させて水につけて焼き入れしました。この時、熱する温度が非常に重要であり、電気を消して赤熱する包丁をじっと見つめる場に緊張が漂います。そして、ここだ!という色になったところで水につけました。

ジューという音を立てながら冷える包丁を見守りますが、職人さんの表情が優れません。実はこの時、先端部分にヒビが入り、のちに割れててしまいました。こんな簡単な小さな包丁でも、何時間かかけて作ったので、なかなかに辛いものがあります。もし何ヶ月もかけて作り上げてきた日本刀で同じことが起こり、一瞬で修復不能になってしまったらと考えると、それを乗り越えてきた刀鍛冶の凄みを感じました。

今回は、割れた先端部分を切り落として続けることにしました。

 

←包丁に塗られた焼刃土を乾燥させている様子。薄く塗られた刃先の部分が先に乾き、厚く塗られた刀身の部分はまだ湿っている。

 

 

 

←焼刃土が完全に乾いた様子

 

 

最後に銘をタガネで刻印したのち、ベルトサンダーで刃をつけ、木でできた柄を打ち込んで完成です。銘を掘る作業は、焼き入れの後であったこともあり、かなり強くタガネを叩いたつもりでも、驚くほど傷がつきません。事前に練習に使用した柔らかい鉄との違いに、焼き入れすることの意味を身をもって体感しました。

途中トラブルはありましたが、なんとか包丁として使えるようにはなったので、一安心です。一部でも自分で作り、銘も彫った包丁には形容し難い愛着を感じます。
これまでの工程で五時間ほどの時間を要し、今回は省略したものの、本来はこの後に研ぎとみがきの作業がまだまだ続きます。

完成した包丁

 

体験を終えて

今回の体験では実際の日本刀を作成する方法と比べ、省略した工程や違う部分が多々あるとはいえ、同じ鍛冶場や材料、近い製法で包丁を作成して、雰囲気を味わうことができました。

 大幅に簡略化した工程ではあったこともあり、作業自体は比較的シンプルに感じましたが、その分だけ炭の大きさ、吹子を動かす速度、叩く量、焼き入れの温度など、すべての作業において、職人の鋭い感覚が必要とされることが想像できます。

 このような技術は一朝一夕で身につくものではなく、この伝統を800年近く続けたこと、そしてこれからも受け継いでゆくことの価値や意味を実感することが出来ました。この経験は生涯にわたって大切なものとなると思います。

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